自動車保険 損害率2

 値上げの夏である。ハムやバター、小麦粉、航空運賃など幅広い分野で料金改定が行われる中、自動車保険(任意保険)の保険料も7~10月にかけて値上がりする。

 ただ、食料品などとは異なり、大手損害保険会社はここ数年、ほぼ毎年のように値上げを実施。理由は毎回異なるが、昨年も損害保険ジャパンが平均2%、東京海上日動火災保険が1・9%、三井住友海上火災保険が1・7%の値上げを行っており、「また上がるのか」と嘆くドライバーも多いことだろう。

 しかも、損保各社が加盟する損害保険料率算出機構は今月4日、自動車保険料の参考値となる「参考純率」を5年ぶりに平均0・7%引き上げると発表。これを踏まえ、来年以降、再度の値上げを実施する損保がでてきても不思議ではない。

 なぜ、自動車保険料の値上がりは続くのか? その背景を調べると、日本の自動車産業が抱える課題、さらには日本全体の構造的な問題に揺れる自動車保険の現状が見えてくる。

 自動車保険料は、損保各社にとって保険料収入全体の4~5割を占める主力商品。主力とはいっても、過去10年をみると、大手損保の自動車保険事業は最近まで赤字が続いており、利益率の低下が指摘されていた。
 自動車保険料の平均的な年間相場は約6万4千円。値上げは契約者にとって大きな負担であり、また不満だが、毎年のように繰り返される料金改定という事態がこの商品の収益性の低さを物語っているともいえる。

 度重なる値上げの要因の一つが、「損害率」(保険料収入に対して支払った保険金の割合)の悪化だ。平成9年度までは50%台だったが、21年度には70%台を突破。保険料収入の約7割を保険金の支払いに充てなければならないという状況に陥っている。

 交通事故の減少などで24年度は68・7%に改善されたものの、それでも損保各社の経営を圧迫しており、損保全体による自動車保険金の支払いは年間約2兆2千億円に達している。

 この十数年で損害率が急速に悪化したのは、損保各社では関与できない日本社会の構造変化がある。

 具体的には、先進国の中で最も進む高齢化と、若者の雇用の不安定化などだ。内閣府によると、総人口に占める65歳以上の割合は約24%と4分の1を占める。高齢化が深刻化する一方、デフレ不況による就職難、非正規社員の増加など若者の所得減少やライフスタイルの多様化が自動車分野、自動車保険にもたらした影響は小さくない。

世界の自動車販売台数は昨年まで4年連続で過去最高を更新しているが、日本はマイナス成長が続いている。昨年の国内販売は約537万台とピーク時(約780万台)に比べ約3割ダウン。日本の自動車メーカーは「環境」「安全」といった業界共通の開発課題に加えて、構造変化による「ドライバーの高齢化」「若者のクルマ離れ」という日本特有の“壁”に直面している。これらが高齢者による事故件数の増加と、若者の自動車保有率の低下などにともなう保険料収入の減少につながり、損害率を押し上げているというわけだ。

 5年ぶりに参考純率の引き上げを発表した損保料率算出機構は、被保険者の年齢別区分も算出。「29歳以下」と「70歳以上」は各20%以上(普通小型車の標準モデル)と大幅に引き上がる一方、「50~59歳」は0・4%にとどまっており、高齢者と若者の事故率の高さを考慮した数値となった。

 「自動車保険のボリュームは大きく、短期、中期的に少子高齢化の影響は限定的だろう」。ある損保会社の担当者はこう推測する。トヨタ自動車など自動車メーカー各社は若者が魅力を感じるクルマづくりとともに、自動運転など事故を減らすための安全技術の開発に取り組んでおり、これも損保各社にとっては心強い動きだ。
 とはいえ、自動車保険料の値上げが今後も続けば、若者を中心にクルマ離れが加速する可能性もある。言い換えると、ドライバーの中心はますます高齢者となり、それにあわせて事故の件数は増加するはずだ。

 SMBC日興証券株式調査部の丹羽孝一シニアアナリストは「自動車保険は、年金や医療などの社会保障と同じように、相互扶助の世界で成立している」と指摘する。損保各社では年齢別にきめ細かな保険料を設定するが、それでもさらなる値上げについては細心の注意が必要だろう。


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